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退 屈 な 人 へ 第19回定期演奏会より 1998.12.20
最初に取りあげたのは20回の記念演奏会のオープニングで演奏しようと思っていた曲だが,先取りして今回取りあげることにした。
華やかなファンファーレで始まるこの曲は,1954年ボルガ川とドン河を結ぶ運河の完成を祝ってドミトリー・ショスタコービッチによって作曲され,1965年イーストマン音楽学校のドナルド・ハンスバーガーがウインドアンサンブル用に編曲した”祝典序曲”である。
3/4拍子の壮大なファンファーレで始まり,2/2拍子の急速な主部に入る。再び3拍子のファンファーレが現れ,プレストの短いコーダで締めくくられる。
主部の主題は「森の歌」の第5楽章によるもので,クラリネットのソロで始まる。第2主題はホルンによって豊かに歌われ,華やかさと,力強さを伴ったこの曲はこれぞ祝典曲の神髄,といえる曲である。
2曲目は少し趣を変えて,ジェームズ・バーンズ作曲の”呪文とトッカータ”を取りあげた。この曲は1981年ニュー・メキシコ州立大学の依嘱で作曲された吹奏楽のためのオリジナルであり,バーンズの曲の中で最も演奏回数が多く,最も有名な曲である。
銅鑼を伴ったティンパニの同音連打にのってホルンが重々しいテーマを示し,トランペットが追いかける。やがてグロッケンを中心とした小刻みな音型に変わり,木管セクションが神秘的なメロディーを奏でる。やがて重々しいテーマが戻り,打楽器の導きによりアレグロのトッカータに入る。
最初は3/4拍子で演奏も楽であるが,途中から7/8,3/8,5/8,8/8拍子など,楽譜から目を離すことが困難となる,目まぐるしい変拍子の世界へと入っていく。
この部分はフーガのようにリズミックな音型が次々に現れ,次第に盛り上がっていく。クライマックスでは木管セクションが自由に演奏し,その下で金管楽器が祈りのテーマを厳かに再現し,短いコーダで,華やかに曲を締めくくる。
T部の最後を飾るのは管弦楽法の達人,ニコライ・リムスキー=コルサコフ作曲”スペイン奇想曲”である。
彼はロシア5人組の一人として,「シェエザラード」の作曲家として名を馳せている。1887年に作曲された「スペイン奇想曲」はスペインの色彩を多く取り入れた音楽で,当初はスペイン風の主題による技巧的なバイオリン幻想曲として計画されたが,書き進むうちに管弦楽曲となった。
曲は第1楽章「アルボラーダ」(朝の歌),第2楽章「変奏曲」,第3楽章「アルボラーダ」,第4楽章「シェーナ(情景)とジプシーの歌」,第5楽章「 アストリア(地名)のファンタンゴ(スペインの舞曲 )」からなり,それぞれ続けて演奏される。
強烈でむせ返るようなスペイン情緒を背景に,オーケストラの色彩的効果を徹底的に追及した曲である。
演奏するのはウインター・ボトムによる吹奏楽バージョンであるが,オーケストラを凌ぐ演奏効果に巡り会うこともある。
バイオリンをクラリネットに置き換えた1楽章・3楽章,2楽章でのホルン・オーボエ・サックスのソロ。そして,4楽章の金管セクションのファンファーレ。中間部のフルート・クラリネット・オーボエのソロは見どころといえる。しかし,曲全体から溢れ出んばかりのスペインの明るさが,この曲の真骨頂だ。
第U部は訳があって”稲穂の波”と”交響詩「ティルオイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」”を先回の定期演奏会に続いて取りあげた。
というのは,本年度ウインドオーケストラ結成以来,初めて吹奏楽コンクールに出場した。近隣で活動している多くのバンドは,ほとんど毎年のようにコンクールに出場して,しのぎを削っている。我々もそのコンクールに出場して,自分たちの力を試してみようということになったのだ。
せっかく出場するのだから,人前で胸を張って演奏できるようベストを尽くそう,県大会ぐらいは突破しよう,と,なれないパート練習もたびたび行った。いつもの定期演奏会のごとく,私自身が合奏に参加できたのは2,3回,しかも,全員が集合できたのは当日の朝だった。でも,これは我々のバンドでは当たり前のことで特別に変わったことではない。
コンクールの本番直前も,いつもの如く私を筆頭にみんな緊張したが,満足のいく演奏ができた。県大会を無事に通過すると,あれよあれよという間に,全国の舞台に乗っていた。
開館間もない琵琶湖ホールの本番は必ずしも満足のできる演奏とはいえなかったが,金賞をいただいてしまった。その演奏をご披露しない手はない,ということになった。
本年度のコンクール課題曲”稲穂の波”は,題名の通り稲穂の揺れる様や,様々な田園風景を綴った音楽である。6/8拍子を主体とした緩・急・緩のオーソドックスなスタイルで書かれている。ただ演奏に際して6/8拍子の中の3拍子は、非常にとりにくく演奏が難しい。完成度の高い作品とは思わないが親しみやすく、何か心を落ち着けてくれる優しい曲である。
自由曲として取りあげた”交響詩「ティルオイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」”も先回と同じことになるが,曲の内容をより理解していくための道しるべとして,記しておく。
いうまでもなく管弦楽のためにリヒャルトシュトラウスが書いたもので,吹奏楽での演奏は今年の2月から解禁になったばかりである。以前はマークハインズレーの編曲版がアメリカから出版され,吹奏楽でも時々演奏されていたが,著作権者から演奏の差し止めがされ,楽譜の出版はされていても演奏ができないという,何ともおかしな状態が続いていた。それが与野高校の斎藤先生のアレンジが著作権者に認められ,彼のアレンジでの演奏が可能になった。
この曲はリヒャルト・シュトラウスがティル・オイレンシュピーゲルの伝説を交響詩で音楽化したものである。
「むかしむかしあるところにいたずら者がいたとさ」が曲頭の
である。「そのいたずら者はティル・オイレンシュピーゲル」
がこの旋律で,ホルン演奏者にとって非常に難しく,また腕の見せ場でもある。この旋律 が色々と変化し曲の大部分を構成している。 以下その物語の概略を示しておく。 昔々いたずら者がいたとさ。その名前はティルオイレンシュピーゲルという。ティルは冒険を求めて足取りも軽やかに出発する。早速いたずらを探し始める。変装して,元気いっぱいのティルは忍び足で市場へ近づく。そして突然馬を駆り市場へ乗り込む。器物は壊れ,女や子供たちは逃げまどう。一暴れしたティルはどこかへ隠れてしまう。しばらくすると,なぜか僧衣をつけ,大衆を集めてまじめな顔で道徳について説教を始める。ところが、堅苦しいことには絶え切れず,再び馬にまたがりおもしろいことはないか,と,うろついていると偶然にも美しい娘たちと出会う。そこで一人の美しい女性を本気で好きになってしまう。彼はあふれんばかりの愛情を注ぐのであるが,失恋の洗礼を浴び,世の中に興味を失った。そして,ティルは全人類への復習を誓うのである。開き直ったティルのいたずらは更にエスカレートしていった。ところがこれまでの悪行のためにとうとう捕らえられ,裁判にかけられる。被告となったティルはあざ笑うように口笛を吹くが,いつしか恐怖に襲われ,おずおずと絞首台に登り,命を絶たれる。
こうしていたずら者の生涯は終わったが,彼のユーモアといたずらは,昔々という物語で生きている。憎い奴だったが本当に楽しい奴だった。 我々にとっては非常に難しい曲であり,初のコンクール挑戦に際して,乗り越えなくてはならないハードルがいくつもあったが,ティルのいたずらと共に,我々の心に一生残る曲となるに違いないこの曲を,もう一度みなさんに聴いていただきたい。
桐田正章
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